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令和の時代の「蜘蛛の糸」

芥川龍之介の小説、蜘蛛の糸

 

あの小説のあの主人公は、自分のあとに続いてくる人たちを振り落とそうとして、自分も一緒に墜ちてしまった。

その振り落とされた人たちはどうなったんだろう、とよく考える。

そう、私は、まさにその振り落とされた人の気分だった。

 

 

2020年のスタートは、コロナが蔓延するなかで、

人と人とのつながりがぷつりと途絶えてしまった。

 

こんなに簡単に、人のつながりは途絶えてしまうのだろうか?

会いたい人と自由に会えない。

それだけで、閉塞感があふれてくる。

 

真っ暗闇に放り出されたような気持ちになった。

 

 

そんな中で、キラリと光るものが目の前に表れた。

 

目を凝らしてよくみると、「糸」。

しかも、あの蜘蛛の糸とは違って、

横からふわりと漂ってきた。

 

この糸にすがっていいのだろうか?

信じてすがってみても、またぷつりと切れてしまうかもしれない。

 

それでも、この糸しかすがるものがないのだ。

 

とにかくつかまってみる。

たぐりよせてみる。

 

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そうすると、同じように不安げに糸をもっている人が、横にいた。

 

気がつくと、横によこにと、糸はのびていく。

2人のときは「線」だったその糸が、

3人、4人と繋がっていくと「面」になってくる。

 

そして、蜘蛛の糸のように細かった糸は、だんだんとより合わされて

「紐(ひも)」となってきた。

 

ふと気がつくと、真っ暗闇の綱渡りのような日々の中、

オンラインの世界でつながった仲間たちとの「縁」が

まるで「命綱」のように自分を支えてくれていた。

 

そして、オンラインから広がる世界が、

また新しいつながりを紡いでいき。

どんどん広がっていく感覚が生まれた。

 

縦糸と横糸。

色とりどりの色。

繊細でうつくしい絹糸さん。

無撚糸のシンプルな綿糸くん。

暖かくて優しい毛糸さん。

そしてゴツゴツして太いけど頼れる麻糸くん。

 

ひとそれぞれ、もっている「糸」の種類はさまざまで。

 

それが、からまりながらほつれながら、

ひとつの「絵」が編まれていく。

 

たくさんの方たちと織りなす「絆」が

また来年はどのように続いていくだろうか。

その結果が楽しみだ。

 

 

そう、令和の時代の「蜘蛛の糸」は、

上から与えられるものではない。

横に繋がり合うのだ。

 

 

 

「知善説」と「知悪説」

「ブラフ」という言葉を知っていますか?
 
この言葉が市民権を得始めたのは最近のこと。
 

ブラフ=bluff

 戦略的なはったり、空威張り、ホラ吹き

 
 などの意味だそうだ。
 
営業や商談で、有利なポジションをとるためのブラフ。
ある程度戦略的なブラフならば、多少のホラは許されるといった
ところもなきにしもあらず。
ビジネス用語としても使われるようになった。
 
 
某国の某大統領がブラフを多発したのは記憶に新しいが、
そのブラフを見抜けない人が多いことに驚いた。
 
ブラフ(ウソ)が当たり前の世界になると、
人が人を信じられなくなり、どんどん悪い方向に流れていく。

一定以上の知性があるはずの人たちの間で、

不思議なほど「陰謀説」が広がっていく。

 
 
さて、そう考えると、人の本性は、性悪説性善説か。
 
中国の戦国時代の思想家の荀子(じゅんし)は、
 
 人の性は悪なり。その善なるは為なり。

 =「もともと人の本性は悪(弱いもの)で生まれてきたが、生まれたあとの教育によってその心を善に変えることができる」

と説いた。
 
そう、荀子は「性悪説」の提唱者といわれるが、
実は「知善説」の人なのだ。
 

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荀子の考え方
 
 
 
現代になって、誰もが平等に教育を受けられるようになり、
道徳の授業も増えてきたのに、
どうして「悪」は消えないのだろう。
そして、「ブラフ」を見抜けないのだろう。
 
世の中の流れが、
「ちょっとした悪はOK」となっていないだろうか。

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最近の流れ
たとえば、
・出張に行ったときのマイルは自分のものにしてOK

 ・いただきものをメルカリで売るのはOK

・gotoキャンペーンのクーポンをもらって使うのはOK

・ちょっとしたうわさ話を他人に面白く話すのはOK

・不機嫌なときには話しかけられても返事しないのはOK

 
など、このへんの知性は裏ワザ程度として
許される範囲のものだろう。
 
それが、
・架空の出張をつくってマイルを稼ぐ

 ・盗品だとわかっているものをメルカリで売る

・gotoのキャンペーンのクーポンをゲットして即キャンセル

・人の話が「ウソ」だとわかっているのに、YouTubeTwitterなどで

それを誇張して広める

・意図的にひとりの人を徹底的にシカトする

 
などになると、
それはもはや「悪」だ。
 
自分ではちょっとした知恵を働かせたつもりが、
知らず知らずのうちに、どんどんと悪の道に進んでしまう。
ウソがウソを呼び、ブラフがブラフを呼ぶ。
今、その流れが加速していることが恐ろしい。
 
 
もう一回、立ち止まって考えたい。
 
「知性を《善》のために使う。」
 
それには、強烈な意思の力が必要だ。
 
生まれつき善か悪かは関係ないのだ。
 
知性を《善》のために使う。
 
そのことを毎日一回、考えていきたい。
 
一日一善とはいうけれど、
なにも善な行動はできなくてもいい。
 
ただ、
「自分の知性を《悪》の方向に使わない。」
 
その決意があるだけで、世界は良い方向に向かっていく。
 
 

 

 

 

現実には2つある。

 

「思考の整理学」という本の中で、外山滋比古さんはこのように書いています。

 

”現実に2つある、と言ったら笑われるであろうが、知恵という《禁断の木の実》を食った人間には、現実は決してひとつではない。”

”われわれがじかに接している外界、物理的世界が現実であるが、知的活動によって、頭の中にもうひとつの現実世界をつくり上げている。はじめの物理的現実を第一次的現実と呼ぶならば、後者の頭の中の現実は第二次的現実と言ってよいであろう。”

”大部分の人間は、ほとんど第一次的現実によってのみ生きていた。それでは本当に現実に生きることにならないのも早くから気づかれていて、哲学への志向が生まれた。”

”従来の第二次的現実は、ほとんど文字と読書によって組み立てられた世界であった。ところが、ここ三十年の間に、新しい第二次的現実が大量にあらわれている。テレビである。茶の間にいながらにして、世界の果てまで行くことができる。旅行したような気持ちになれる。そして、そのうちにそれが、第二次的現実であることを忘れてしまう。”

”現代人はおそらく人類の歴史はじまって以来はじめて、第二次的現実中心に生きるようになっている。これは精神史上ひとつの革命であるといってよかろう。”

 

そうなんです。

今、わたしたちが直面している現実が「第一次的現実」で、

本やテレビの中でつくられた頭の中にある現実が「第二次的現実」なのです。

 

うちのじいちゃんも、朝早くから畑でまっくろになるまで働き(第一次的現実)、

家に帰ったら、夜はWOWOWでハリウッドのアクション映画を見るのが大好き(第二次的現実)。

 

そんなふうに、人は実際の現実と、観念的な現実と、2つの世界を行き来することで

心のバランスをたもっているんですよね。

 

しかし、テレビからインターネットへと第二次的現実の世界が広がり、
生活の中心が第二次的現実へとなっていきました。

そして「第二次的現実」を商売にして儲ける人たちもでてきました。

芸能人、ゲームクリエイター、マスコミ、○○評論家…などなど。

 

だから子どもたちに「読書しろ」「勉強しろ」とうるさくいうのですよね(汗)

 

それについて、外山滋比古さんはこのように書いています。

 
”しかし、思考は、第一次的現実、素朴な意味で生きる汗の中からも生まれておかしくはないのである。”
 
”これまでは、《見るもの》《読むもの》の思想が尊重されたから、《働くもの》《感じるもの》の思想は価値がないときめつけられてきたのである。”
 
”人々の考えることに汗の匂いがない。したがって活力に欠ける。意識しないうちに、抽象的になって、ことばの支持する実体があいまいになる傾向が強くなる。”

 

ほんとうに最近、ことばから「汗の匂い」がしなくなっていることを感じます。

 

子どもたちのあこがれの職業の「YouTuber」も、「第二次的現実」の中で生きるお仕事です。

いわゆる「ひきこもり」といわれる状態も、「第二次的現実」の中で生きていきたい、辛い「第一次的現実」をみたくない気持ちから発生しているのでしょう。

 

このような感覚を否定するわけではありません。

 

ただ、あなたの目の前に広がる空の色、緑の青さ、空気の匂い。

 

自然の厳しさと恵み。

 

道端に落ちている石を拾ってみましょう。

ずっしりとした重さ。それを握れる手があること、それが奇跡です。

 

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美しい紅葉の季節です。

ときどきはスマホから目を上げて、

「第一次的現実」をしっかり感じていきたいですね。

 

ことばから「汗の匂い」が消えていくと、活力が失われていく。

人間であることそのものが揺らいでいくような気がしています。

 

”仕事をしながら、普通の行動をしながら考えたことを、整理して、新しい世界をつくる。

汗の匂いのする思考がどんどん生まれてこなくてはいけない。”

 

 

目を上げて、深呼吸をして、手を動かし、体を動かす。

あなたの人生は、だれのものでもない、あなただけのもの。
誰かのつくった現実を生きるのではなく、あなた自身の現実を生きましょう。

そして、その「汗の匂いのする」現実を、あなたの言葉で伝えましょう。

 

 

思考の整理学 (ちくま文庫)

思考の整理学 (ちくま文庫)

 

 

 

【でこぼ子選・上質なフィクション7冊〜7】タイタンの妖女〈カート・ヴォネガット・ジュニア〉

【〈孤独〉と〈つながり〉を愛する上質なフィクション7冊】

 あなたのために、孤独と向き合いながらも、人とのつながりの素晴らしさを描いた上質な小説(フィクション)を中心に7冊セレクトしてご紹介します。

 

お手にとる機会があれば、ぜひ。

 

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7日目の最終日は、カート・ヴォネガット・ジュニアの「タイタンの妖女」です。
 
タイタンの妖女

タイタンの妖女

 

 

爆笑問題太田光さんがこのSFの大ファンで、
それで事務所の名前を「タイタン」にしたのは有名なエピソード。
 
私も、ことあるごとにこの本をおすすめして来ました。
(「またか」と思う方もいらっしゃるかと思いますが、
どうかご容赦くださいませ。)
 
大金持ちの御曹司で、浪費家の女好き。
最低のゲス野郎、マラカイ・コンスタントがこの話の主人公。
 
タイタンにいる絶世の美女に会わせてあげようという甘い囁きにだまされ、
宇宙船に乗ったところ、着いた先は火星。
 
そこで記憶もお金も全部奪われ、火星開拓団として働くことに…
 
もうひとりの大富豪で宗教家のウインストン・ナイルス・ラムファードの予言通り、
ラムファードの奥さんを妻としながら、
火星→水星→地球→タイタン、とマラカイのたびは続きます。
 
果たして、マラカイはこの旅の中で、どう変わっていくのか?
「ほんとうにたいせつなもの」をみつけることはできるのでしょうか?
 
 
そして、この本の中に、「水星」の章があって、
ここだけ独立させてもいいくらい、美しい。
 
水星には、ハーモニウムという美しい生き物がいて、
ハーモニウムは、次の2つのメッセージをひたすら歌い続けます。
最初のそれは、「ボクハココニイル、ココニイル、ココニイル」
第二のそれは、「キミガソコニイテヨカッタ、ヨカッタ、ヨカッタ」
 
このハーモニウムがとにかく美しく可愛く、
私はこの本を読んだ中学生の頃、本気で「ハーモニウムを育てる仕事がしたい」
と思い込んでいました。
(で、今、結局それにちかい仕事をしていますが…)
 
どんなに人は孤独でも、
つまるところ、この2つのメッセージがあれば生きていけると思ってるんです。
 
「ボクハココニイル、ココニイル、ココニイル」
「キミガソコニイテヨカッタ、ヨカッタ、ヨカッタ」
 
 

 

【でこぼ子選・上質なフィクション7冊〜6】私の消滅〈中村文則〉

【〈孤独〉と〈つながり〉を愛する上質なフィクション7冊】

 あなたのために、孤独と向き合いながらも、人とのつながりの素晴らしさを描いた上質な小説(フィクション)を中心に7冊セレクトしてご紹介します。

 

お手にとる機会があれば、ぜひ。

 

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6冊目は、中村文則さん「私の消滅」です。
 
「このページをめくれば、あなたはこれまでの人生の全てを失うかもしれない。」
 
こんな衝撃的な言葉で始まる小説。
 
これでページをめくらないでいられる人、いませんよね(笑)
 

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私の消滅(中村文則
 
孤独を描かせたらピカイチの、中村文則さん。
 
「銃」や「教団X」など、この方のエログロ追い詰められ系の純文学が大好きです。
(これを純文学というのかどうかも謎ですが)
 
どんなにエロでグロで絶望的であっても、
それを綴る言葉が洗練されているのです。
 
この「私の消滅」も、愛した女性が姿を消した。
その行方を追う「私」と、凄惨な過去を綴る手記。
 
その手記を読み進めていくうちに、
脳を操作して記憶を変えることができる医者が登場して、
「あれーー?なんだかおかしいぞーー?」
と嫌な予感に満ちてきます。
 
「私」は誰?「彼女」は誰?
もしかして、「私」が犯人なのか?
 
「I」という存在があいまいになってくることで、
読んでいる自分もわからなくなる。
 
今まで生きてきた記憶さえも、ほんとうに正しかったのか?
自分で楽しい記憶だけを捏造しているのか?
 
そんな足元が揺らぐ感覚にさせてくれる、
恐ろしくも楽しいフィクションです。
 
私の消滅 (文春文庫)

私の消滅 (文春文庫)

 

 

(追記)

中村文則さんの最新作「逃亡者」

こちらも中村文則さんワールド炸裂です。

お好きな方はぜひ。

 

 

逃亡者

逃亡者

  • 作者:中村 文則
  • 発売日: 2020/04/16
  • メディア: 単行本
 

 

【でこぼ子選・上質なフィクション7冊〜5】傘をもたない蟻たちは〈加藤シゲアキ〉

【〈孤独〉と〈つながり〉を愛する上質なフィクション7冊】

 あなたのために、孤独と向き合いながらも、人とのつながりの素晴らしさを描いた上質な小説(フィクション)を中心に7冊セレクトしてご紹介します。

 

お手にとる機会があれば、ぜひ。

 

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5冊目は、
加藤シゲアキさんの「傘をもたない蟻たちは」です。
 

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傘をもたない蟻たちは
 
いわずとしれたジャニーズ軍団のNEWSのメンバーでもある加藤さん。
 
だからきっと、書く文章も、軽くてきらびやかでかっこいいんだろうなと思ってました。
 
しかし、そんな予想は裏切られます。
 
ストイックでシンプルな文体が、現代の若者の孤独を浮き彫りにします。
 
ちょっとだけ見栄を張って後悔したり、
まわりと合わせすぎて息苦しくなったり、
好きになりすぎてどうしようもなくなったり。
 
それが、この短編集に詰まっています。
気楽にどこからでも読めるのがいいですよ。
 
その中「イガヌの雨」というストーリーが特にお気に入り。
いまのコロナウイルス時代の閉塞感を表しているようで…
ちょっとだけゾッとするお話しです。
 
この前に紹介した桜木紫乃さんや吉田修一さんなどは、
「貧しくて過酷な運命のなかにも、希望を見出す」というお話しが多いですが、
 
この加藤シゲアキさんや、朝井リョウさん、柚木麻子さんなどこの30代の作家さんたちは
「物質的に豊かで恵まれているのに、心の中はどうしようもない深い闇」
という話が多いですね(^^;)
この虚無感を「アノミー」と呼ぶのだそうですが、
この話題はまたあらためて。
 
恵まれている中でも、絶望と孤独はある。
でも、どこかに希望を見出してほしいものですね。
 

 

傘をもたない蟻たちは (角川文庫)

傘をもたない蟻たちは (角川文庫)

 

 

 

【でこぼ子選・上質なフィクション7冊〜4】ラブ、スターガール〈ジェリー・スピネッリ〉

【〈孤独〉と〈つながり〉を愛する上質なフィクション7冊】

 あなたのために、孤独と向き合いながらも、人とのつながりの素晴らしさを描いた上質な小説(フィクション)を中心に7冊セレクトしてご紹介します。

 

お手にとる機会があれば、ぜひ。

 

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4日目は、
ジェリー・スピネッリさんの「ラブ、スターガール」。
 

 

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ラブ、スターガール

  

「スターガール」は、おしゃれでエキセントリックで、
ずば抜けて利他的なヒロイン「スターガール」が、
ちょっとずつクラスの中から浮いていき、
最終的にみんなに無視されて、大好きなボーイフレンドのレオとも別れ、
消息不明となってしまうという、なんとも切ないお話しでした。
 
この「スターガール」、グレース・ヴァンダー・ウォールの主演で、2020年3月に映画化されています(^^)日本でも公開してほしい!
 
 
この「ラブ、スターガール」はその続編。
 
我らが愛するスターガールは健在でした!
 
忘れられないレオに書く手紙形式のストーリー。
 
レオのいない毎日のなかで、スターガールは相変わらず感性豊かに、
利他的に生きています。
その繰り返しの中で、少しずつ、少しずつ、同じように傷ついて孤独で利他的な仲間たちが集まってきて
小さな奇跡を起こします。
 
 
なんてことのない日常のなかから、素晴らしい宝石をみつけていくスターガール。
ほんとうは、あなたの毎日も、
見回してみたら素晴らしいものがたくさんありますよ(^^)
 
 
ラブ、スター・ガール

ラブ、スター・ガール